杭州・西湖畔でソメイヨシノを詠む

杭州之桜

盛華大輪如満桜
百花斉放中国城
春日訪杭州見桜
正開華日本同時
我望双桜成亜樹

縁あって、この春、中国各地を旅してきた。実は中国に来たのは20年ぶりなだけに、経済成長の続く今の中国のあまりの変わりように驚くことしきりだった。

杭州を訪れたのは、ちょうど桜が咲き始めた4月初め。「西湖十景」と言われるこの湖周辺の景観の素晴らしさに魅了され、ひがな1日、春の日差しの中で時を過ごしてきた。

杭州の桜はよく見ると日本のソメイヨシノのようだ。調べてみたら、2004年にANA杭州に就航したのを機に、日本から桜を持ち込み、植樹したからという。それにしても、まさか杭州で日本の桜に出会えるとは驚きだった。早速、ひとつひねってみたのが冒頭の漢詩だ。

そもそも杭州は秦の始皇帝が行政府を置いたことに端を発する。のちに北京との間に運河がつながったことで江南地区の交易の中心地となる。その後、呉越国、南宋の首都として繁栄の時代を迎える。その面影は西湖周辺に残っている。

古の残影とともに、杭州を有名にしたものが料理とお茶だ。西湖を渡る散歩道「蘇堤」に名が残る蘇東坡は、詩人としても有名だが、実は大のグルメで、豚の角煮「東坡肉(トンポーロー)」は、彼の名前から取ったもの。こんな話がある。

蘇東坡は、政争のあおりで左遷され、杭州の太守として赴任。当時すでに53歳の高齢のため、もはや中央への復帰はないとあきらめ、西湖の浚渫工事と堤防作りを行なうなど、この地のために尽くした。おかげでその年は大豊作となり、住民たちは感謝をこめて豚を丸ごと1匹と紹興酒のカメを贈ったという。これを持ち帰った蘇東坡は、自分の料理人に命じて紹興酒で豚を煮込み、これを住民に振る舞ったことから「東坡肉」と呼ばれるようになった(譚璐美『中華料理四千年』より)。

蘇東坡とともに、杭州料理を有名にした人物が清の乾隆帝だそうだ。彼は西湖の景観とともに杭州料理を気に入り、何度もこの地を訪れては西湖の淡白な魚料理や東坡肉を食し、ついにはお気に入りの料理人を宮中まで連れて行ったという。

そしてもうひとつの名物が「龍井(ロンジン)茶」。龍井とは、龍の棲みかの意味で、西湖三大名泉で淹れるこのお茶は、西湖の由来となった美女・西施を思わせる気品のある風味がとてもよい。ちょうど新茶が出ていたこともあって購入した。いささか値段は高いが、お土産には最適だ。