天駆ける「神の瀧」に命水を授かる

龍にサンズイを付けると「瀧」になる。古来、瀧は龍の棲みかと言われてきたが、仙境・九寨溝こそ、「神の瀧」が流れる聖地であった。

九寨溝には100以上の湖とともに、17もの滝がある。中でも、幅310mの珍珠灘瀑布や、同じく320mという幅広の諾日朗瀑布が有名だ。いわば中国版ナイアガラ。確かにそれも滝の美しさのひとつではあるが、滝マニアとしての触手が動いたのは九寨溝の入り口に近い「樹正瀑布」の方だった。

滝口の幅は62mと、前2者よりは狭い。高さも11mと平凡だ。しかし、噴き出す水の勢いや流れる水の流量はすさまじい。そして、滝から流れ落ちた水が一気に横に広がり、本流とは別に岩の下をくぐって幾筋にもなり、それが幾層にも連なって再び川に流れこんで来る。まさに龍が天駆けるようなうねりを見せる姿。こんな滝を見たのは初めてだった。

急峻な川が多い日本では、那智や華厳のような直下型が多く、滝の幅より、落下高を競うところがある。この逆に、最近は白糸の滝や原尻の滝(大分)のような幅広の滝が人気だ。これがナイアガラ型。樹正瀑布は高さも幅も大したことはない。しかし、滝から落ちた水流が複層型になって暴れて流れるところに妙味がある。あえて言えば「氾濫型」。これが暴れる龍をイメージさせるのだ。

滝の良し悪しは、さらに「音」と「飛沫」にある。滝が近づくにつれ、聞こえてくる瀑音が気持ちを高め、期待感を煽る。樹正瀑布は、滝の音だけでなく、流れゆく水流も心地よく響く。そして滝つぼに近づくと飛び散る飛沫。マイナスイオンをいっぱいに浴びると、命水を授かったように鋭気が上がる。まさに瀧の恩恵をすべて体験できるのが、この樹正瀑布であった。

この瀧の雄姿はビデオに撮って帰ってきた。今年の夏は、エアコン代わりにこの瀧の音を聞いて過ごそうと思っている。