幻のパンダを求めて雪の九寨溝を行く


4月の九寨溝はまだ雪景色だった。ベストシーズンは秋の紅葉というが、雪を冠った山間に浮かぶ湖面を見ていると、むしろこんな風景を見られた偶然に感謝したくなる。まさに雪の九寨溝は、この世の景色とは思えない美しさだった。

九寨溝には100を超える湖がある。この地に暮らすチベット族の伝説では、高山に住む男神ダゴが愛する女神ショモに宝鏡を贈ったとき、悪魔のいたずらで女神が宝鏡を砕いてしまい、そのかけらが下界に飛び散って九寨溝の湖になったのだという。

観光バスの終点で降り、九寨溝の西南・日則溝景区の雪道を歩く。しばらくすると、「熊猫海(パンダ海)」に着く。この湖の名は、かつてパンダがこの湖面まで水を飲みに降りてきたことに由来する、という話が広く流布されている。ところが、我々を案内してくれたガイド歴16年の李さんは、こんなエピソードを打ち明けてくれた。

九寨溝は1970年代に国を挙げて森林伐採を進めていた時に発見されました。しかし、これによってチベット族の聖地として守られてきた九寨溝の自然がどんどん荒れていったのです。それを見過ごせないと思った環境庁の役人が一計を案じました。ここにパンダが棲息しているとわかれば、森林伐採は止まるはずだと。彼の気転が功を奏し、その後、九寨溝の自然保護が叫ばれ、ついに1992年に世界遺産に指定されたのです」。

どんな案内文を見ても、「かつてこの湖で水を飲むパンダが目撃されたが、今は見ることができなくなった」と紹介されている。なるほど、実はこんな裏話があったとは・・・。確かに自然保護団体がよく使う手ではあるが、誰も実際にパンダを見た人がいないのだから、これは神話として語り継がれていけばいい話かもしれない。

この湖ではチベット族の貴族の衣装を借りて写真撮影をしてくれる。1回200元。せっかくだから、記念に王様の衣装を借りた。「幻のパンダ」に敬意を表して。