万里の長城を仰ぎ見ながら「農家菜」を味わう


北京から「北の離宮」として知られる招徳方面に向かって車で1時間ほど走ると、ここ数年、長城観光の穴場として知られるようになった「水長城」に到着する。ここが人気になったのは、万里の長城を眺めながら、「農家菜」といわれる農家レストランで地元のおいしい料理を味わうことができるからだ。

最近、中国でも農家レストランが人気だ。週末ともなると、ドライブがてらに都市近郊の農家レストランで食事をしたり、宿泊して畑仕事を体験したりするのがアウトドアレジャーとして定着している。北京の近郊にある農家菜として友人に紹介されたのが、この水長城にある「騰龍飯店」だった。

高台にあるこの店からは、対岸の山並みを這うように伸びる長城が一望できる。長城観光のメッカ・八達嶺だと蟻の行列のような賑わいに閉口するが、ここは人けも少ないので、のんびり観光できるのがいい。

この店の名物のひとつは、山間の清流で採れる金鱒魚という鱒の一種で、淡白なこの魚に唐辛子を振って焼いて食べるとなかなかの味わいになる。また特色豚のソーセージと、初挑戦になるロバ肉のスモークも注文した。

しかし、この店の一番のお薦めは、採れたての中国野菜の数々だ。この地方特有の明日葉に似た野菜の天ぷらや苦菜の甘酢がけは、採れたてということもあってとても美味だった。安全でおいしい野菜が食べられることは、今の中国では最高のぜいたくでもある。

そもそも20年前の中国には、野菜と言えば、トマトと白菜、じゃがいもとにんじん、トウモロコシなど、数えるほどしかなかったそうだ。北京の友人の話では、「キューリを普通に食べるようになったのは最近のこと。子どもの頃は正月にしか食べられなかった。だからキューリを食べると正月を思い出す」という。

そんな郷愁を誘うためなのか、この店のメニューにはトウモロコシのおかゆとパンがあった。トウモロコシのおかゆは、1970年代の毛沢東時代の代表的な料理で、かつてはこれでお腹を満たしていたため、中年以上の人たちには懐かしい食事なのだそうだ。

トウモロコシは当時の貴重なビタミン源。安全でおいしい野菜を食べることが農家菜の楽しみではあるが、貧しかった昔を偲び、”懐かしさ”を食べるのも、大人たちの農家菜の楽しみ方であるようだ。