「海の巡礼」紀行・・・玄界灘は雨混じりだった。


前々からぜひ行きたかった海から行く韓国ロード。西国巡礼ルポはいったんお休みし、壱岐対馬を経由し、玄界灘を渡って行く「韓国巡礼」をレポートします。


2月中旬の博多港。雨混じりの埠頭で、壱岐行きのジェットフォイルに乗り込む。「この景気で、日本人の旅行者はガタ減りだよ」と博多で拾ったタクシーの運転手はやけ気味だが、船内は地元客でほどほどの入りだった。船旅というと、いつもは必ず甲板に上がり、出発から接岸するまでの航路のすべてを見納めたいという要求に駆られるのだが、この船は高速を売り物にしているため、甲板には出られず、シートベルトを締めさせられ、座席から動くこともできない。おまけに海上に出ると雨が降り始め、外の景色さえ拝めなくなった。とはいえ、博多港から約67km沖合いの壱岐の表玄関・郷之浦に、わずか1時間で到着してしまった。それにしても思った以上に近いんだなぁ。


今回の旅では、九州から船で韓国へ渡り、古朝鮮時代の遺跡が残る朝鮮半島南部を回るつもりである。船で行くなら、古来、朝鮮と日本の文化の伝播ルートであった壱岐対馬には立ち寄らねばならない。そう思って、壱岐からのスタートとなった。壱岐についたのは夕方だったため、今日の「収穫」はないが、明日から島内を駆け巡る予定。本日は壱岐牛鉄板焼きと壱岐焼酎のお湯割りを飲んで、静かに旅の初日を終えた。


韓国行きを思いたったのは、ここ数年、見続けている韓国時代劇がきっかけだ。ご存知「チャングムの誓い」から始まり、女流詩人「ファン・ジニ」や高句麗の祖「朱蒙チュモン)」、最近では新羅の女王「善徳(ソンドク)女王」にはまっている。今では朝鮮の歴史にもかなり詳しくなった。


会社の近くにあった焼肉屋のお兄ちゃんに、日本では織田信長坂本竜馬が人気だが、韓国で歴史上の人物で有名なのは誰? と聞いたところ、彼は即座に3人の名前を挙げた。一人は、朝鮮の歴史上で最大版図を記した英雄・広開土王。ぺ・ヨンジュンが演じて話題となった「太王四神記」で知っている人も多いだろう。二人目は、ハングル文字を作り、朝鮮王朝で最高の名君といわれた四代目の世宗(セジョン)。彼も「大王世宗」というドラマになった。そして三人目が秀吉の朝鮮侵略を食い止めた孤高の英雄・李舜臣だ。日本の教科書ではあまり記述されていないが、ドラマ「不滅の李舜臣」で見る彼の活躍ぶりは感動ものだ。今回、朝鮮半島南岸を回りたいと思ったのも、彼の戦いの跡を辿りたい、ということも目的のひとつである。


いわば韓国時代劇マニアのオヤジの一人旅。「冬ソナ」ブームでドラマのロケ場所を訪ねたおばさまと同じノリだ。とはいえ、以後、朝鮮と日本の関わりについていろいろ参考文献も読み漁った。中でも、司馬遼太郎の「街道をゆく/壱岐対馬編」には、いたく旅情をそそられた。準備は万端、玄界灘の冬景色をたっぷり堪能して、いざ韓国を目指す!