那智の滝、そして札所一番へ。

07年11月、奈良での仕事を終え、ちょうど正倉院の”曝涼”の時期でもあったため、奈良国立博物館へ。そのまま帰ろうか、どうするかと考えていた時、ふと「那智の滝」を思い出した。これから那智へ行こうと。すぐに天王寺まで出て、紀勢本線で約3時間30分かかって那智勝浦へ。なんだかとても遠いところに行く気分で、駅に着いたときは周囲は真っ暗。その日は駅前のホテルで一泊した。翌日は、隣の那智駅から歩くことに決めたが、気分は高揚、なかなか寝付けなかった。


11月11日早朝、待ちきれない思いで那智駅へ。駅からバスが出ているらしく、参拝客を乗せたバスが出ていったが、西国巡礼のスタートだけに、ここはやはり歩かなければ。まずは駅前に建つ補陀洛山寺へ。ここはかつて海の果てにあるという観音浄土を目指し、補陀落渡海=つまりは海の向こうへ「死」の旅に出た渡海上人を祀ったお寺。その後も多くの人々が海への旅に出たそうだが、想像するだに、壮絶なものという気がして、神妙になった。まさに、那智に入るにはふさわしい聖地でもある。


ここから住宅地や国道に寸断された熊野古道をたどって歩く。那智天然温泉あたりから井関を通って、霊園に抜ける古道は、まさに熊野古道そのもので、樹林を抜けて道なき道を歩く。霊園近くで集落が一望でき、情趣を感じた。歩き始めて1時間半ほどすると大門坂へ。近くに駐車場やバス停があり、わさわざ駅から歩かなくても、というなら、ショートカットしてここから歩くのもいいかもしれない・・・。


とまれ、大門坂からの杉木立と苔むした石段は、那智に行く気分を盛り上げてくれる。いささかへたって1kmほど歩くと、いよいよ遠くに滝の姿が見えてくる。「あぁ、ここまで来てよかった」という思いが高まる。本殿へ抜ける参道入り口周辺は土産物屋が並び、観光客であふれる。ここはさっさと抜けて、ついに札所一番の「青岸渡寺」に着いた! 


「あんた、駅から歩いて来たのかね? それゃ、えらいこちゃ」。本殿前の案内所にいたおばちゃんが感心してくれ、みかんをご馳走になった。


那智山青岸渡寺は、紀元4世紀頃、インドから渡来した裸形上人が那智の滝つぼから観音像を見つけ、後に推古天皇の勅願によって、生仏上人がこの観音像を胎内仏として如意輪観音を設置したのが起源。以来、熊野詣での聖地として信仰されてきた。すぐ隣に熊野那智大社もあるが、この寺の方が地味だが、趣があるうえ、那智の滝も望める。ここでこれから始める西国巡礼に必要な準備を整える。私は、①納経帳、②笈摺(おいずる)を購入。以後、札所を回る度に、朱印をもらう(納経料は1回300円)。これがスタンプラリーのようで、なかなか楽しい。


しばし休憩し、ここからさらに那智の滝をご神体とする飛瀧神社に降りていく。いよいよクライマックスの那智の滝だ。境内中に案内放送が響きわたるのがうるさいが、この滝を前にすると、しばし唖然、呆然。ただただ、すごい! これがあの那智の滝なのだ・・・ということで、あえて説明するより、その後、かみさんがこの滝を訪ねて撮った写真を添付しておきます。


帰りは飛瀧神社前のバス停から那智駅まで。・・・なんと帰りの所要時間はたった15分。あまりの近さにびっくり。行きは歩いてよかったと、改めて感じた西国巡礼の一番札所参りだった。